今回とりあげる『MONSTER』は1994年から2001年まで連載された作品です。
第46回小学館漫画賞を受賞し、浦沢直樹先生の代表作の1つです。
浦沢先生といえばアニメ化された『Yawara!』や実写映画化された『20世紀少年など』の数々作品を生み出しています。
また、Eテレにて『浦沢直樹の漫勉neo』という番組を不定期にて放映中です。
この番組は浦沢先生自らプレゼンターとして出演し、漫画家の作業の様子を放送するという構成です。 漫画好きにはたまらない番組です。
先生自身で作られたエンディング『漫画描きのバラード』も良いのですよ。
漫画に対し真摯に向き合う浦沢先生の『MONSTER』にはどんな名言・名セリフがあるのでしょうか。
目次
MONSTERとは
ドイツで優秀な脳外科医、そして患者からの評判も良い天馬賢三。
彼は院長の娘エヴァと婚約中。 頼まれた手術も、論文も彼は見事な結果を出すがそれら全て院長の手柄となる。
だが、ある日彼は頼まれた手術を断ってしまう。 それは市長の手術だったが、彼は自分の予定通りに入っていた亡命してきた子供の手術を行う。
結果、子供は助かったが市長は亡くなってしまう。 この手術のせいで彼は院長から責められ、エヴァとの婚約も破棄。
それでも自分は正しい選択をしたのだと思う天馬だった。 だが、まさかこの手術の結果により殺人事件が起こるなど誰も想像していなかった。
天馬賢三(Dr.テンマ)の名言
天才脳外科医。 エヴァと婚約し、順風満帆な生活を送っていたが双子の手術で生活が一変する。
殺人の犯人とされてしまい、逃亡生活を続ける。
「人間はやり直せる。 今からでも遅くない……」
重要参考人の人物が交通事故に遭い、天馬により無事手術成功。
最初は些細なことだったのにずっと盗みを働いてしまった、と告白する患者に告げる言葉。
天馬自身もそうだし、誰もが同じ。 そう諭す彼に患者は明るい未来を描く良い場面です。
殺人犯だろうとも、天馬にとっては大切な患者に違いない。 この言葉に天馬の人柄が良く出ています。
「明日はきっといい日だ。」
里親と暮らすディーターと出会い、彼が世界は、人生は真っ暗だと里親に言われているという話から出るセリフ。
このセリフでディーターの世界は変わります。 洗脳するように何度も真っ暗な世界と言われていた彼にとって、天馬の言葉でそこから出て行くきっかけになります。
また、ディーターは天馬を信頼し彼と共に行動します。
「私もあの時、カンニングしてたんだよ。」
大学時代の同級生ルーディはカンニングをしようとしたが天馬に見られてしまう。
それ以降、ルーディは天馬が自分を見下していたように感じていた。 殺人事件に関しては天馬が嘘をついていると思っていた。
だが、調べる内に無実だと感じ天馬を逃がそうとした時に天馬に言われたセリフ。 この一言でルーディは自分にかかっていた呪いが解けたと思います。
ずっと天馬に対し劣等感を抱いていて、殺人事件で彼は虚を言っていると思っていた。 だが、証明するために調べるとそうではなかった。
やはり天馬は、天馬だったと思うルーディに対し天馬がこう言うのです。 大学の時からのわだかまりのようなものが消える瞬間です。 そして、天馬の性格がわかる言葉でもあります。
「冷静でいられるわけないだろ!!」
連続殺人犯として追われている天馬。 その目の前で自分を追い重傷を負ったルンゲ警部にいつでも冷静だと言われて言い返すセリフです。
天才脳外科医と呼ばれる天馬ですが、手術の時はいつだってビクビクしていたと吐露します。
自分の手に命がかかっていると思うと怖いに決まっている。 例え、相手が自分を捕まえるために追う刑事だとしても、救える命を見過ごすことはできない。
天馬の意志として矜持が感じられます。
「患者を善悪によって助けるかどうか、選択する権利なんか医者にあるのか!!」
弁護士と接見した時に命の平等について考える天馬が言うセリフです。
結局、ここに戻ってくるんだと思う場面です。 医師としては間違っていない、助けられる命を必死に助けるだけ。
その人がどんな人間かなんて関係ない。 だけど、自分がヨハンを助けたことで多くの人が亡くなっている。 どうすることもできない天馬の魂の叫びだと思います。
「こんなものをふりまわす人間は…… あまり信じないほうがいい……」
自分のことを信じてくれる気になった弁護士に言うセリフです。
医師という命を救う立場から、今はヨハンを追い殺すための銃を振り回すだけでなく撃つこともあります。
天馬は信じてほしいと言いますが、いざ信じたいと言われると手に持つ銃の重みにこう返す天馬。
もちろん、自分の言ったことを信じてくれたことは嬉しい。 だけど、悟ったようでいて、少し微笑むような表情を浮かべこのセリフを言います。
その顔から常に葛藤があることが滲み出ています。 丁度弁護士の子供が生まれた場面でもあるので更に言葉の重さを感じます。
「復讐は復讐をよぶ……何度でも繰り返される……」
天馬を匿っていた人が殺され、彼と仲良くしていた子供たちが復讐だと繰り返した時に諭すように言ったセリフ。
MONSTERでは沢山の人が亡くなります。 誰かの憎い相手は、誰かの大切な人です。
ですが、その連鎖を止めなければいけないと子供に言い聞かせているようで実は天馬自身にも返ってくる言葉です。
ヨハン・リーベルトの名言
10歳の頃、天馬に命を助けられた。
一命を取り留めた彼は人を操り、多くの人を殺していく。
「先生の望む通りにしてあげたんだよ。」
ヨハンを助けたことで人の命の平等だということが分かった。
それなのに何故殺人を繰り返すのかという天馬に対して言うセリフです。 ヨハンは人の隠れた欲望のようなものを掬い取るのが上手く、皆が彼に心酔していきます。
ヨハンを助けたことで全てを失った時期だった天馬の声を聞き、実行したというヨハンに打ちのめされる天馬です。
目の前の命を救う。 ただ、医師として正しいことをしたはずなのに結果としては多くの人が死んでいくことになります。 天馬の慟哭が胸に刺さります。
「僕を見て!僕を見て!僕の中のモンスターがこんなに大きくなったよ、Drテンマ」
ヨハンからのメッセージです。 このメッセージを見て、彼は殺しを楽しんでいると感じる天馬。
作品のタイトルでもあるモンスターとはどういうものなのか、ヨハンの意図は何なのか。
物語にどんどん引き込まれていく文章です。
「誰にも平等なのは…… 死だけだ。」
銃を向ける天馬と対峙した時にニナにした時と同じように自分の額を指して言うセリフです。
生は条件によっては不平等だが、死は誰にも必ず訪れるもの。 このMONSTERという作品の軸です。
アンナ・リーベルト/ニナ・フォルトナーの名言
天馬が助けた双子の妹で10歳以前の記憶がない。
実は、彼女こそが兄であるヨハンを撃った本人。
天馬と出会い、兄をもう一度殺すことを決意。
「あなたは悪くない。」
天馬と出会い、失くしていた記憶が蘇りなぜ手術をしたのかと天馬を責める。
しかし彼と接している内に自分こそがヨハンをもう一度殺さなければいけないと天馬に黙って出て行った手紙の一節。
知らなかった兄の一面を見て、殺すために引き金を引く。 だが、その命は天馬により助かってしまった。
このことに対し、一度は天馬を責めたものの、彼の職業は医者であり、当然の行為だった。
それでも自身を責める天馬に対し書いた文章ですが、この一節は天馬を許すということで大きな意味を持つんですよね。
ヨハンの肉親であるニナにしか言えない言葉だと思います。
エヴァ・ハイネマン の名言
天馬の元婚約者。
大病院院長の娘らしく派手な生活を好み、傲慢。 天馬が失脚しそうになった途端、すぐに婚約を破棄する。
「人の命は平等じゃないんだもの。」
同僚がした手術で人が亡くなってしまい、その家族に責められ落ち込む天馬。
だが、あの場では仕方なかったと言い聞かせつつも自分だったら救えたかもしれない。
そう嘆く天馬に対して言うセリフ。 エヴァのセリフですが、これが物語の肝でもある重要なセリフです。
お嬢様で何でも願いが叶うエヴァの今までが見え、しかもお金や地位といったもので命の順位・価値は変わってしまう。
このセリフがあるからこそ、天馬の今後が決まってしまったセリフです。
ディーターの名言
里親に引き取られるも、実はDVを受けていた。
また、実験材料でもあったが天馬と出会い、彼に着いて行くことを決める。
知り合う大人たちに、ディーターは天馬の抑止力として期待される。
「楽しい思い出がなかったら、つくればいいって……」
楽しい思い出とは一体なんなのか、そう考える人に天馬が言っていたと告げるセリフ。
天馬の言葉ひとつひとつをしっかりと学び、意識するしないに関わらず誰かに伝えていくディーター。
彼がいることで、物語で和む場面も多いです。
「これから楽しい思い出つくればいいんだ!!」
過去を思い出そうとして苦しむニナを見かねて叫ぶセリフ。 誰にもひどい思い出はあるし、それほど苦しむなら辛いことをわざわざ思い出す必要なんてない。
ディーターの優しさが胸に迫る言葉です。
Dr.ライヒワインの名言
精神分析医。 天馬の事を信じ、最後まで彼に協力する。
「だから生きていけるんだ。」
時が過ぎれば辛いことを忘れ楽しいことのみ残っていく人間は都合がよい、と話すエヴァへの返しのセリフです。
本当にいろんなことがあったからこそ、言えるセリフです。
また、エヴァが未来をしっかりと見つめていて、周りの人とも良い関係を築けているのがわかって安心するシーンです。
ヴォルフガング・グリマー/ノイマイヤーの名言
特別孤児院511キンダーハイム出身で、死なずに生き延びている。
自分たちと同じような人間を作ってはいけないと事件について調べている。
「笑い方だよ。」
511キンダーハイムでスパイになるための訓練を受けている時に、一番難しかったこととしてあげた。
グリマーはスパイの訓練を受け、表情を作ることのみを覚えています。
ですから、感情というものがよくわかりません。 笑った時はこの顔、という決まったことを繰り返すだけなのです。
そんな彼だからこそ、感情により動かされた表情にはこちらも同じように感情を動かされます。
ハインリッヒ・ルンゲ(ルンゲ警部) の名言
ドイツ連邦捜査局の警部。 話を聞きながらキーボードを打つ動作が特徴的。
この動作により相手の話を記憶する。 天馬を犯人だと決め、執念深く追いかけてくる。
「人間は……… 一生のうちで、どれほどのことを伝えることができるのか……………」
事件が解決し、穏やかに語るルンゲ警部。 家族のことなど顧みず、ただ事件ばかり追いかけてきたルンゲ警部に変化が現れた言葉です。
数々の事件を担当していた彼ですから、今までだって多くの人が亡くなることはありました。 しかし、この事件は彼にとっても特別でした。
今までとは違い、死に向き合う姿が描かれています。 それは、話し合わない内に、突然の別れがやってくることもあるという感情です。
事件最後のあたりからかなり変わってはいましたが、私生活も穏やかなものになったことがわかります。 表情もやわらかく、良かったと思いました。
ヒューゴー・ベルンハルト の名言
天馬に銃を教えた人物。
「一生俺を恨んで生きるだろう。」
ヒューゴーと暮らす少女の母親を彼女の目の前で自分が殺した。
人を殺すということはこういうことだと伝えるセリフ。 ヨハンを殺すために、そして追手と戦うために銃を習うことにした天馬。
このセリフには命の選択と共に誰かの大切な人を奪う可能性。 そのことで誰かの人生も狂わせるということがヒシヒシと伝わってきます。
もちろん、医師であった天馬は言われてなくてもよくわかってはいると思います。 ですが、再確認のような場面です。
まとめ
MONSTERには沢山の名言があります。 今回は天馬の人生を変えた言葉、そして天馬が相手の人生を変えた言葉を中心に選びました。
MONSTERはミステリーということもあり、どんな風に話が進んでいくのかと話を追うのが楽しい作品でした。
また、終わりに近付くにつれ複雑絡まった物語をどのように完結させるのかとドキドキしていました。 出てきたキャラクター全てに物語があるのも素晴らしかったです。
また、浦沢先生の『MASTERキートン』にも見られるような人間関係の機微が描かれた話も多くあります。
細かな伏線も回収し、綺麗にまとめられているのも良いです。 この作品はアニメ化されており、ファンの間では実写化の話も上がります。
ですが、実写化についてはドイツが舞台ということでなかなか難しそうですね。 自分の経験が増えた時に読み返すとまた当時と違った魅力を感じる作品です。
初めての方はもちろん、もう一度読み返してあなたのお気に入りのセリフを見つけてみてください。 魅力的なセリフが多いので、設定を限定して選んでみても楽しいと思います。