「麻桶の毛」とは、四国地方の徳島県三好郡に伝わる一筋、あるいは一束の毛の姿をした妖怪です。
彌都比売(やつひめ)神社の御神体として麻桶に入れられているとされています。
「麻桶の毛」の伝承
「麻桶毛(まゆげ)」とも伝えられており、妖怪と言うよりは神様寄りの存在です。
御神体というだけあって神の心が穏やかな時は何もないですが、荒れてしまった時は一筋の毛が幾つも枝分かれしてどんどん伸び、麻桶のフタを突き上げて溢れ出てくると言われています。
「麻桶の毛」の物語
昔、三好郡の加茂村に彌都比売神社という社があり、「加茂の下の宮」と呼ばれて親しまれていました。
しかし、井内谷の山賊達がこの近郊の農家を荒らし、豪族からも財宝を奪って行きました。
山賊達は上機嫌で加茂の下の宮の祠に集まって財宝を分配しました。
ふとした拍子に山賊の一人が辺りを見回すと、既に山賊達の周りは長く伸びた毛で幾重にも囲まれていたのでした。
山賊達の気付かない内に、麻桶の毛が桶のフタを突き上げて溢れ出ていたのです。
麻桶の毛は山賊の人数分に枝分かれすると、その体に絡み付いてギリギリと締め上げました。
か細い毛であるというのに山賊達は振りほどく事ができず、そのまま金縛り状態となってしまい、翌朝には被害を受けた者達が放った追っ手に捕まってしまったと伝えられています。
「麻桶の毛」の正体
麻桶の毛の正体ですが、御神体という事もあるので神の依り代だったのではと思います。自分を慕う村人や豪族達に酷い仕打ちをした山賊達が許せず、神様が直々に成敗するため一筋の毛に取り憑いたのではないでしょうか。
どのような毛の束かは分かりませんが、怪現象で知られる「髪が伸びる日本人形」は毛根付きの髪を使っているため根元の栄養が尽きたり毛根がダメになるまで伸びるという話がありますが、麻桶の毛のスケールはそれを凌駕しているので、神の御業としか言いようがありません。