1998年~2004年まで週刊少年ジャンプで連載されていた武井宏之氏の漫画。
累計売り上げ部数は2600万部で2001年にアニメ化されるなど人気のあった作品だが、ジャンプの連載は未完のうちに打ち切りになった。
しかし2008年にシャーマンキング完全版を発行し新たに380ページ書下ろし物語を完結させている。
その後、出版社は講談社へ移り、書下ろしも加えたSHAMAN KING KC完結版・全35巻が電子書籍で発売される。
少年漫画の王道ともいえるバトル漫画ではあるが、肉体ではなく精神を鍛えることに重点を置いている。
目次
シャーマンキングのあらすじ
主人公・麻倉葉はシャーマンキングになるために上京してきた陰陽師の名門・麻倉家の跡取り息子。シャーマンキングとは一般に神と呼ばれる精霊の王で、シャーマンキングになり全知全能の精霊グレートスピリッツを手に入れれば望み通りの世界にできるという。
葉は「シャーマンキングになってなんの苦労もしないで毎日のんびり楽に暮らしたい」という願いのためシャーマンキングになることを決意するが、本来の「ゆるい」性格ゆえ、修行そのものが目的となり、その目的はしばらくの間忘れられている。
葉がシャーマンファイト出場資格を得て、予選を勝ち抜き、本戦に出場しシャーマンキングを目指すというのが大筋の内容である。しかし勝ち進むにつれそれぞれの正義を掲げ、世界の王を目指す出場者たちと出会い戦うことで、物語はどんどん複雑になり、シャーマンファイトの運営・パッチ族の謎や自分の出生の秘密を知ることになる。
みんなが笑っていられる世界を作るために、葉がどのような選択をするのか。正義と悪、生と死について考えさせられる作品。
シャーマンキングの名言集
麻倉葉の名言
「『死』を克服するなんて初めから死んでるのと同じだろ」
シャーマンキング予選の第2戦で対戦したネクロマンサーのファウストⅧ世との戦いで言った葉のセリフ。
ファウストは最愛の妻・エリザを生き返らせるためにシャーマンキングを目指すのだった。
幼いころから死や霊が身近にあった葉は、「殺すこと」を嫌うが、「死」自体に否定的なイメージがない。
人は遅かれ早かれいつか死ぬ、でも限りある命だからこそ喜んだり悲しんだり出来るというのが葉の考え方。わずか10代たらずで死を受け入れている達観した思想の持主である。
「何が大事かは人の勝手だ そいつが本気でやってりゃ上も下もねえだろ」
シャーマンファイト本戦の対戦相手ICE MANのリーダーはファウストの参加理由がエリザに会うためだけと聞き、そんなくだらない理由で参加しているのかと侮辱した。
それに対して葉がシャーマンキングを目指す理由は人それぞれだと擁護した。
相手の大切なものを決して侮辱せず、相手の気持ちを尊重し受け入れる姿勢は見習いたい。
「なんとかなる」
葉が良く使う口癖。
何も考えていないような楽天的なセリフではあるが、起こってもいないことを今から心配しても仕方がない、ゆったりした心でいつもの自分を失わなければ、その時、何が起こっても最善の選択ができるはずという事だろう。
そう言って葉が数々の苦難を乗り越えてきたからこそ、葉が言うこの言葉を仲間たちが信じられるのだ。
「だって あいつ 友達いねえだろ」
宿敵ハオと対峙した葉は、喫茶店でコーヒーを飲んだ。
命がけで戦っている敵と仲良くコーヒーを飲む神経を仲間たちから非難されるが、葉はさらっとこう答えた。
友達がいない孤独な気持ちは自身の幼少の頃に経験しているからわかるのかもしれない。
参加者全員が優勝候補のハオを倒そうと考えている所、葉だけはどうやったらハオの心を救えるのか考えているのだろう。
誰もが恐れる絶対王者のハオに対しても分け隔てなく心配する葉の大物ぶりがうかがえる大胆なセリフ。
恐山アンナの名言
「あたしは葉がシャーマンキングになるって信じてるから」
たびたび出てくるアンナのセリフ。
どんなに葉が不利な時も彼女だけは葉の勝利を信じている。
アンナの信念は揺るがない。
「これぐらい出来るからって驚かないで あたしはイタコのアンナ シャーマンキングの妻だもの」
麻倉家に伝わる麻倉家の始祖・麻倉葉王の術のすべてが記された書物「超・占事略決」。
その封印が解けて、ハオの強力な式神の封印が解け放たれてしまった。
想像以上の式神の強さに葉の祖父・麻倉葉明も恐れるほどだったが、アンナが超・占事略決を読み瞬時に術を会得し式神を打ち破った。普段の強気な態度は実力があるからこそなのだろう。
「でもあたしはそれ以上に……!この男を愛してしまった」
アンナは人の心が見えるため、辛い思いをし、世をウラんでいた。その恨みが大鬼を育て、葉の命を狙う。しかし葉と出会ったことでアンナは心を開いたのだった。普段クールなアンナだが本当は情熱的な一面も持っているのだと感じさせるシーン。
阿弥陀丸の名言
「平気ではござらん‼だが…‼ 拙者 葉殿に死なれるわけにはもっといかないのでござる‼」
火事に遭遇した葉と阿弥陀丸。屋上に子供が取り残され助けに行こうとした葉を阿弥陀丸が止めた時のシーン。
「だがしかし‼拙者にはもう…葉殿という未練がこの世にあるでござる!」
蓮は侍の霊・阿弥陀丸に目をつけ、自分の持霊にしようと葉に戦いを挑んだ。霊を道具として扱う蓮に阿弥陀丸を渡したくない葉だったが、力の差が大きく勝てないと悟った葉は阿弥陀丸を成仏させて蓮から逃がそうとした。しかし阿弥陀丸は主君を置いて逃げられないと拒否した。2人の絆の深さを知る名シーン。
道 蓮の名言
「力では風や水は壊せないのだな」
シャーマンファイト予選3戦目・葉vs蓮の試合。巫力は蓮の方が上だったが、どれだけ力で挑んでも取り乱すことなく冷静に対応した葉に負けを認めた。実際の勝負は葉も巫力が尽きていたので引き分けとなる。この勝負を機に蓮は変わっていく。
「人間はそれほど汚くはない」
葉に出会い人間がそれほど汚くないと考えるようになった蓮。かつては環境を破壊する人間をゴミのように思い、世界を浄化するためにシャーマンキングを目指していた。しかし自分が人を殺しすぎたことを悔やみ、その罪を償うため自分にできる最大の事をしようと考えるようになる。そして蓮がシャーマンキングを目指す目的は憎しみの連鎖を変えることへと変わったのだった。
ホロホロの名言
「ここはとっくにオレの世界でオレが王者だ」
ホロホロは圧倒的な巫力を持つハオの手下に狙われたICE MANを見殺しにすることができず、加勢に入った。しかし力の差は圧倒的で、状況は絶望的だった。しかし父親からのアドバイス『弱肉強食はあきらめの言葉ではない』をヒントにそれぞれの世界にそれぞれの王がいる事を思い出す。たとえモグラでも土の中でならライオンに勝るように、自分が一番になれる氷の世界を作り出し勝負し、見事ブロッケンを撃退した。
リゼルグの名言
「ハオ!僕は来るべきその日にキミを倒すだろう!それまでの残り少ない日々を大切にしろ!今は風呂に入りたくば入るがいいッ‼」
みんなで仲良く温泉に入っている時にハオが乱入してきたときのリゼルグのセリフ。リゼルグは両親をハオに殺され、ハオを倒すためシャーマンファイトに参加した。
このセリフは当初の彼からは考えられない。
仇撃ちを優先とさせていたリゼルグが、葉と出会い復讐に対する考え方も変わってきたのだろう。
チョコラブの名言
「オレはもう誰も人が死ぬとこなんて本当は見たくねえんだよ」
子供の頃に強盗に両親を殺されて以来、チョコラブはギャングになり殺しや盗みをするようになった。
しかし旅のお笑い芸人でありシャーマンでもある・オロナと出会いシャーマンを目指すようになる。
だがギャング仲間にオロナを殺されてしまう。オロナの最後の『笑いの風で世界を救え、それがお前に残された責任だ』という言葉を胸にそこからは人を殺さないと誓い、笑いの絶えない世界を作るためにシャーマンキングになる決意をした。
木刀の竜
「オレは居場所のねぇ奴の味方だぜ…!」
まん太は両親の意向でアメリカ留学の予定だったがアメリカへ行くことを止めて、葉に会いに行くことを決意した。
しかし財布がない事に気付き空港をさまよっていたところ木刀の竜に出会う。
竜もスシバーで板前修業をするためアメリカへ行く予定だったが、まん太の事情を聞き、まん太を自慢のサイドカーで葉のいる出雲まで乗せていった。
「居場所がねえならオレが居場所になってやる オレがシャーマンになったらお前がオレの持霊だぜ」
トカゲロウは阿弥陀丸に復讐するためにこの世に残っていたが葉に出会い、阿弥陀丸へのウラミが消えてしまった。
トカゲロウはその後何をしたらいいのかわからず、成仏する気にもなれず途方に暮れていた。居場所を失くしてさまようトカゲロウに竜がこう言った。
小山田まん太の名言
「自分の居心地のいいベストプレイスにこそ…自分のやりたい事はある…!」
小山田カンパニーの跡取りであり将来を決められていたまん太は親の決めたレールを歩くしかなかった。
反抗するにも自分のやりたいことが何かもわからず、すでに目標をもって先に進んでいる葉や竜がうらやましかった。その悩みを竜に相談しこの結論に至った。
「良かった 僕はいい友達に出会えたから」
アイアンメイデンが重傷を負った蓮の命を助ける代わりに出した条件は葉がシャーマンファイトを辞退することだった。
その条件を葉はあっさりと受け入れた。葉にとってシャーマンキングになることは簡単に手放せる夢ではなかったが、かけがえのない蓮の命を優先した。
他のシャーマンには理解しがたい行為だったが、葉をそばで見てきたまん太は葉の気持ちが理解できた。まん太もまた葉の良き理解者の一人だ。
マタムネ
「この世の全てに答えなどなく 同じく等しい人間など一人もいない お前さんの進むべき道はいつも心で決めなさい」
大切なことを心で決められなかった後悔からマタムネは成仏できずにこの世に残っていた。
葉に同じ思いをしてほしくないという想いから、葉にそうアドバイスした。
心で決めるというマタムネの言葉はこの後もずっと葉が大切なことを決める時の軸になっている。
「たとえいくら裏切られようと信じる限りこちらから敵対する事などなく むしろ疑いを持たずにいられる事こそが何より自身の幸せである事」
マタムネはアンナを助けるため自身を犠牲にした作戦を葉に伝えるが、葉はそれを受け入れなかった。
そのため自分の後悔を葉に語り、大切なものを守るために決断をせまった。
読書家のマタムネのセリフは詩的で真理をついたセリフが多い。彼の話す言葉のほとんどが何かしら心に刺さる名言である。
ハオ(麻倉葉王)の名言
「僕は今まで一度たりとも人間に友情という感情を抱いた事がない 力がありすぎるというのもまた―――――切ないものだね」
人の心が分かるハオ、千年生きてなお友情を感じる相手がいなかった。部下にハオが何を考えているのかわからないと困惑されているが、葉に対してはこう言った本音を少しずつ話し始めるようになる。
「さもなくば お前の好いている女の名を言うぞ」
葉たちが仲良く温泉でまったりしている時、ハオも温泉につかりに来た。
ホロホロは敵同士で仲良く温泉につかることに抵抗があり、何かとハオに突っかかった。
ハオはホロホロに人の心が読めることを伝え、あまり滅多な事を思い描くなと、こう言って釘を刺した。年頃の男の子には絶大に効果のある言葉だった。
まとめ
シャーマンキングはシャーマンファイトで王を決めるという王道のストーリーではあるが、勝負の勝ち負けを重視していないせいか物語展開もありきたりではない。
途中で打ち切りになり物語は途中で終わってしまったこともあったが、書下ろしによる完結や、葉とアンナの子供の花が活躍する「シャーマンキングflower」や主要キャラの過去が描かれた「シャーマンキング0-ZERO-」など連載終了後も作品が展開していく所をみると指示していたファンは多かったのだとうかがえる。
忙しい現代でこういった「無理をしない」、「楽に生きる」、「あるがままの自分でいる」をいい意味で実践する麻倉葉に共感を覚えた人も多いだろう。
それぞれの視点に立った正義と悪が存在し、どんな悪も裁かず救おうとする麻倉葉の生きざまや、どこか宗教的で真理をついた登場人物たちのセリフは子供よりも大人の方が読み応えを感じるかもしれない。