『Happy!』(ハッピー)は、浦沢直樹によるテニスを題材としたスポーツ漫画。
1993年~1999年まで『ビッグコミックスピリッツ』にて連載された。
「YAWARA!」の次回作として発表された本作は、後に発表される「Monster」や「20世紀少年」ほど大きくメディアで取り扱われてはいない。
しかし、1人の少女が周囲の悪意や不幸に負けずテニスを続けていく物語は読む者に感動と勇気を与えてもらうことができるに違いない。
目次
Happy!のあらすじ
海野幸は幼い3人の兄弟の面倒を見ながら、学校に通う女子高生。中学校時代は元テニスプレイヤーの父の才能を受け継ぎ、全日本ジュニアの優勝を飾るほど有望な選手に成長していた。
しかし両親の死により、一家を支えていかなければならなくなった幸はテニスを止めてしまう。
高校卒業後に百貨店への内定も決まっていたが、事業に失敗し蒸発した兄の借金・2億5千万円を背負うことになり、就職をあきらめ、高校を退学する。そしてプロテニスプレイヤーになって返金することを決意する。
貧しい一家を支える少女が、世間から誤解されバッシングを受けながらも家族のためにテニスで世界の頂点を目指すまでの物語。
Happy!の名言・名セリフ集
海野幸の名言
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「お兄ちゃんは一生懸命なだけです!!お兄ちゃんの悪口言わないでください!!」
桜田に兄の悪口を言われた時に言い返した時の幸のセリフ。
兄のせいで2億5千万円の借金を背負うことになった幸だが、借金取りに追われてソープに連れていかれそうになっても、アパートを追い出されても兄の事を恨んだことは一度もなかった。
「試合は終わってません!!ボールははいってます!!」
初めての蝶子との試合。蝶子にコントロールされた試合会場は幸に対して激しいブーイングを浴びせる。周りが敵でも自分が正しいと思った事を主張できるのが幸の強い所である。
「お兄ちゃんはあたし達兄妹が幸せになるために一生懸命なんです!!お兄ちゃんを悪者になんか絶対させません!!」
鳳唄子の指示で身につけた魔球・ロイヤルフェニックス1号は観客やマスコミに理解されず卑怯な魔球とののしられた。また蝶子の情報操作で幸は世間から完全に悪者にされていた。
それを見ていられない菊子や圭一郎が自分の境遇をマスコミに話し理解を得るように説得する。
だが、それをすると兄が叩かれると思った幸は自分が叩かれる道を選んだ。
自分がどれだけひどい境遇に立たされていても、家族を思いやり、他人に対して疑ったり悪意を持たないのが幸のすごい所である。
「笑いたい時は勝手に笑います!! 自分の好きな時に笑います!! 今は笑いたくありません!!」
幸は兄が借金したビッグバンファイナンスの社長である鰐淵に気に入られてしまう。
ホテルに呼び出され「君の笑顔が見たいだけだ」と言われ札束を渡そうとする鰐淵に対して「これは間違っている」と意見し、お金を受け取らなかった。
鰐淵に啖呵を切った名シーン。
「あたしは潰れたりしません。だってあたしには…世界一のコーチ兼トレーナーがついてますから!!」
サブリナ・ニコリッチの引退が早まったことがテレビで報道された。それを知ったサンダー牛山は幸がサブリナの引退までに、彼女に勝つことは不可能だと考えた。そこで幸のコーチを降りると言い出す。
そして今まではサブリナを倒すという栄光のためだけにコーチをしていた事を幸に告白する。
サブリナにこだわってこれ以上ハードなトレーニングを続けて選手生命を潰すよりも、他のコーチについてプロテニスを続けて借金を返していく道をが幸の最良の道だと判断したからだろう。
しかし、幸はサンダー牛山の野望を受け入れ、信頼し彼にコーチに頼んだ。
全く折れない幸にサンダー牛山は観念しコーチを続けることを受け入れた。
「死んだ父さんが言ってた。くやしくていいんだって。負けてくやしくないやつは、そのあとも勝てないって。」
親友であるお菊の復帰がかかった蝶子との試合で負けてしまい一人で大泣きした幸。
幸のために引き受けた蝶子のコーチだが、その結果裏目に出てしまったことで圭一郎は罪悪感をもちながらその姿を見ていた。
圭一郎の存在に気付いた幸はくやしいのは、自分が余計な事を考えて、いつものテニスができていなかったからだと説明した。
幸の父親の言葉は圭一郎に火をつけた。もう一度プロテニスプレイヤーを目指そうとするきっかけになる。
桜田純二の名言
「だがな、少なくとも俺は応援してるぜ。」
初試合では魔球が卑怯だと全客席からブーイングを浴び、蝶子の策略で失恋し、友人も失いそうになり落ち込んでいた幸。
桜田は精神的にかなり参っていた幸に、たい焼きをご馳走し、こう励ました。
当初はテニスで借金が返せるわけがないと反対していたが、彼女の努力を見ていた彼は幸の良き理解者になった。
「いつか…きっと来る…金のためじゃないテニスをやる時がよ。」
USオープンの応援に来ていた桜田が帰国する際、幸に言った励ましの言葉。
好きだからサッカーをやっていた桜田には、まだ二十歳にも満たない少女が家族の借金を背負ってテニスをする姿に切なくなってしまったのだろう。
幸に楽しくテニスをさせてあげたいという気持ちと立場上、借金を取り立てないといけないという板挟みの彼の苦しい心情をとてもよく表している。
鳳圭一郎の名言
「もう僕なんか忘れてくれ。」
圭一郎が婚約者の雛に言ったセリフ。
圭一郎は物心ついた時から母親の言いなりで自分で物事を決断することができなかった。
物事に流されがちだった彼が初めて流されずにきちんと自分の気持ちを話すことができた。
「君は前に進め‼」
幸は圭一郎が手のケガで今後テニスをする事ができなくなったことを知った。
自分がテニスを続けると周りが不幸になると思っていた幸はこれ以上テニスを続けたくないと取り乱す。圭一郎はそんな幸を力強く励ました。
「故障も実力のうちだ。故障のせいで負けたらそれが実力だ。勝負は…自分と戦っているんだから…」
蝶子の手引きで雛は幸の対戦相手に幸の左ヒザの故障の情報を流した。
罪悪感で幸の試合を観ていられないと逃げ出した雛に圭一郎はそう言って雛を慰めた。
世間知らずのお坊ちゃまだった圭一郎だが自立し、プロテニスプレイヤーとして戦う幸の姿を観て成長した。当初の圭一郎からは考えられないほどの成長ぶりである。
竜ケ崎蝶子の名言
「あたしが勝てばみんなが幸せになるわ。何万人もの幸せがあたしの肩にのっかってるの、わかる?だからあたしはどんな手段を使っても絶対に勝つ。それがプロなの。」
雛は蝶子に幸の苦労を知ってほしくて、幸の境遇を蝶子に伝えた。
だが蝶子はそんな事は知っているし、それは私には関係ないと突っぱねた。
日本中の期待を背負って戦う蝶子、プロとしてコートに立つ以上プレイヤーは何かを背負って立っている。そのプレッシャーに負けない人間がコートに立ち続ける条件なのだ。
「当り前じゃない。あたしに勝って決勝進出したんだから、このくらい…当り前よ。」
ヒザの故障を抱えながらも女王サブリナ・ニコリッチを追い詰める幸の試合を観て、初めて蝶子が本物の涙を流したシーン。
賀来菊子の名言
「あたしのサーブは時速200kmだよ‼」
借金取りに追われていた幸たちをテニスラケットとボールだけで撃退したときのセリフ。
「やる前から勝負捨てたら、いつまでたっても負けっぱなしだよ。」
プロテニスプレイヤーになると決めた幸だが、現実は日本テニス界の有力者である鳳唄子にテニス界の永久追放を通告されてしまい道は行き詰っていた。
プロになれないかもしれないと弱音を吐いた幸に対して喝をとばした時のセリフ。
サブリナ・ニコリッチの名言
「そんなに強いのなら、いつか私と勝負して勝ってみろ。もし勝ったら、その時はこのカーディガンはあんたのものだ」
幸は一度諦めたセール品のカーディガンを購入しようとするが、来日中のサブリナ・ニコリッチも同じものを購入しようとしていた。
幸は自分の方が早かったと主張したが、サブリナも自分の方が先だと主張する。
さっさと店主に支払いを済ませてしまったサブリナはこう言って去っていった。
まだ無名の幸とテニス界の女王と呼ばれているサブリナの初めての出会いのシーン。
鳳唄子の名言
「ボールははいっていました。あなたは負けていません。」
蝶子との試合でボールが入っていたことを主張した幸だったが、審判はもちろん誰も彼女の言い分を聞かなかった。結局誰にも取り合ってもらえなかった為、試合には負けてしまったが、観戦していた唄子だけは幸の言葉を肯定した。
唄子は幸の父親との因縁や、息子に悪影響を与える存在である幸に対して厳しいが、テニスに関しては公平に幸を見ていた。
サンダー牛山の名言
「ニコリッチが消えたらウェンディの時代…あんたの言う栄光ってな そんなもんかね?」
サンダー牛山は幼馴染で因縁もあるアラン・キャリントンに「ミユキ・ウミノを育てたコーチの名は永久に世の中に出はしない…君には一生栄光はないんだよ」と言われたことが引っかかっていた。
テニス界から永久追放されているサンダー牛山は日陰のコーチであり試合中コートに入ることも許されず観客席から観戦するしかない。
どれだけ幸が勝ち進んでも彼を優秀なコーチと認めるものがいない事に投げやりになってしまったが幸のプレイを観て初心に帰った。
彼はそんな世間の評判よりも、誰もが女王と認め勝つことを諦めているサブリナ・ニコリッチを倒す事が栄光だと信じ、アランにサブリナ・ニコリッチを引退前に倒す事を宣言した。
まとめ
主人公・海野幸のもとに借金、嫌がらせ、貧困生活、バッシング、ヒザの故障、様々な悪意や不幸が訪れる。一見不公平に見える環境でプロとして戦っていく彼女だが、敗北の理由をそれらのせいにしたことはない。
だが幸自身もそれほど強い人間ではない。とにかく兄弟のために我慢して、そして人を信じているのだ。
彼女ほどのお人好しでなければあれほどの不幸を背負う事もなかっただろう。だがそれほどお人好しだからこそ成し遂げられたこともあると思う。
またテニスコーチであるサンダー牛山は一流の指導力があるがとにかく胡散臭い。それでも彼を信じ最後までその指導に従った。
何かをやり遂げようと努力する時、「このやり方は正解だろうか」、「このまま続けても無意味じゃないか」など、途中で様々な雑念が邪魔をする。周囲からの善意でさえ弱い人間はプレッシャーとなりそれに押しつぶされる。そういった感情に捕らわれずに物事に集中できる人間が何かをやり遂げられるのだ。
この物語はプロとしての心の在り方をテニスを通して体感できる作品である。